ナイスコントロール ガリクソン投手からのおくりもの 連載(4)
1週間の入院後、僕は糖尿病についていろいろ勉強しました。まず僕の場合の糖尿病は、食べ過ぎや太りすぎでおこった糖尿病ではなかったのです。糖尿病には大きくわけて2つのタイプがあります。ひとつは食べ過ぎや運動不足で起こるタイプで、大人に多いことから、成人型糖尿病とか2型糖尿病とか呼ばれるものです。そして、もうひとつのタイプはウイルス感染によっておこるタイプで子供に起こりやすいことから若年型糖尿病とか1型糖尿病とかよばれるものです。
僕の場合は21歳と若年型にしてはやや年齢が高かったのですが、風邪のような気管支炎の後で起こってきたことや、急激にのどが乾いたり、体重が減ってきたことなどから、1型糖尿病と診断されました。つまり、僕を糖尿病にしてしまった犯人は、2ー3週間前にひいたかぜのウイルスだったわけです。そのウイルスは僕の他にも数人の子供達もこの病気に巻き込んでしまったらしく、同じ時期に風邪をひいて糖尿病になったという子供達も多く入院していました。
つぎに理解したことは、糖尿病は一度なったら治らないということでした。これを知った時、僕の目の前は一瞬真っ暗になりました。もしこれがなおらないのなら、大リーグ野球といった苦しいハードなスケジュールをとてもこなせるはずはない、絶望の底につきおとされた気持ちでした。
しかし、糖尿病の場合は他の病気とは違い、病気になっただけではそれほど怖いものではないということを聞き、ホットしました。つまりこれから何も治療しないで放置すると、合併症といった他の怖い病気(神経障害、網膜症、腎症など)が起こるのですが、きちんと治療を続けていれば、なにもおこらず一生元気でくらせるといわれたためです。最初はその意味がよく分かりませんでした。病気なのに他の病気を予防する?、病気なのに元気でくらせる?いったいそれはどんな意味なんだろうか、直感的にはつかめませんでした。
その内に、糖尿病になったおかげで自分の体を大事にするようになり長生きした人が沢山いる、ということも知りました。つまりこれは、この病気をもっていてもきちんと仕事ができ社会で自立していけるということを教えてくれました。そして政治家や、スポーツ選手でも多くの人達がこの病気をもっても優れた仕事を成し遂げていることも聞きました。糖尿病は、いままで自分が考えていた病気のイメージとはちょっと違う病気であることを理解したのです。
また、ぼくの体重が減ったり、喉が乾いたりしたのは、すべて血糖値が高いせいだということも分かりました。血糖値というのは血液の中を流れるブドウ糖の濃度のことで、普通の人は100mg/dlなのですが、これが糖尿病になると200とか 300mg/dlとかと高くなります(これを高血糖と呼びます)。これは体に流れている糖分を上手に利用できない状態で、車でいえば不完全燃焼のような感じです。エネルギーはあるのに、うまくそれが燃えてくれていないのです。
そして体の中の糖分が利用できないために、脂肪や筋肉がエネルギー不足になりとけでてしまい、体重が減ってくるわけです。さらに、高血糖があるとそれが腎臓からあふれでて、尿の中に糖が沢山でてくるようになります。(尿の中の糖を尿糖といいます。)この為、尿は浸透圧が高くなり、多くの水分を体の外に引き出すようになるわけです。これが、体にとっては水分不足を引き起こし、喉の渇きが起こってくる原因です。
ナイスコントロール!―ガリクソン投手のおくりもの
ビル・ガリクソン (著), 鈴木 吉彦 (著)
医歯薬出版株式会社
supported by 放射線技師 H