膵リパーゼ阻害剤、欠点と臨床的Tips
オルリスタット(商品名:ゼニカル)の最大の短所は、脂肪便がでる、ということです。トイレにべったりと張り付くような便の色がついた脂肪が便器にはりつきます。トイレの掃除が大変になります。
海外では、便失禁をしてしまうので「おしめをはいて飲む薬剤」と揶揄されているそうです。白い下着や洋服はきれなくなります。スラックスを何枚もダメにしたという紳士も居られました。
一般には、おならをするのが怖くなります。ですから、通常、この薬剤の欠点は、体重の減少が、ー1kgからー2kgだからダメなのではなくて、QOL(生活の質)が低下する場合が多いので勧められないというのが臨床医の本音です。
トイレに近い職場にいる、トイレにいきたい時にいける、おならをしたいと思ったら、すぐトイレにいける、そのくらいの環境にないと、この薬は服用できないと考えております。逆に、それができる環境におられる方には、積極的にサクセンダやビクトーザとの併用はお勧めしています。専業主婦でいつも家にいる、とか、会社の中でも自由にトイレにいきたい時にはいける立場であれば、問題ないと考えています。
幸い日本は海外と比べてトイレの環境は整備されています。コンビニ、ホテルなどが立ち並ぶ場所では、トイレは、すぐいける、というのは他の国ではないことです。
GLP1注射薬をしていると、脂っぽい食事が嫌いになります。胃もたれしやすいからです。投薬量が多くなればなるほど胃酸過多になり胸焼けします。サクセンダ1日 3.0mgでは、食事摂取量が増えてしまうことがありますが、それは胃酸を薄めたいという目的から何か口にいれて胃のむかつきをとろうとしてしまうからです。
もしGLP1ダイエットをしていて、サクセンダ1日投薬量が 2.4mgから3.0mgのレベルであるならば、相当、油の多い食材は嫌いになっていると思います。そういう状況の下であれば、膵リパーゼ阻害剤(ゼニカル)を服用していても食事自体の中に、脂が少ないので安全です。薬が作用する物質が少ないので脂肪便は起こりにくいはずです。つまり、GLP1注射薬をしている状態では必然的に脂肪便は減り、膵リパーゼ阻害剤の欠点に悩まされる頻度も減ります。
だから、この2つのコンビネーションは、「臨床」のテクニックとしては「お薦め」の組み合わせとなるわけです。
糖尿病があれば膵リパーゼ阻害剤の代わりにメトフォルミンを処方するという手があります。メトフォルミンも大量に服用すると下痢が起こります。よって、GLP1注射薬とメトフォルミンとの併用は便通を改善させることが可能になります。どのGLP1注射薬を選択し、どのくらいの、メトフォルミンを投薬するかは「糖尿病専門医の腕のみせどころ」になります。
私が、「プラクティス」つまり「臨床」という概念に、こだわるのは、そういうコンセプトをしっかり保持し、その上で、受診者に処方できる医師でなくてはいけない、と考えるからです。便秘はGLP1ダイエットにおいては、とてもコントロールが重要な副作用のひとつです。それを「水を飲めばいい」、「ビタミンCを飲めばいい」と助言する医師であれば信用するべきではないと考えています。国際的なガイドラインを読んでいない医師かもしれません。当院で1カプセル100円で、ほかの美容系クリニックで購入するより、はるかに安価にしているのも、それが GLP1 ダイエットにおける標準治療であるからです。
なおゼニカルは、一度、止めると再び効いてくるのに2,3日かかることがあるので、できれば、もったいなのですが継続をお薦めいたします。ゼニカルの場合は継続していけば、副作用が軽減してくることも知られています。腸内細菌叢が変化してくれるからだと考えます。