真面な処方できない医師のために消えた抗肥満薬
大麻の成分カンビナノイド受容体の拮抗薬であるリモナバン(Rimonabant, SR141716)は、肥満の原因となる食行動異常や喫煙に関与するニコチンへの依存などを修正するため、期待が持たれていました。
メキシコで2型糖尿病を伴う肥満症に対して認可された後、欧州でも市販されましたし、日本でもBMI25以上の肥満糖患者さんを対象にして、臨床試験が行われました。
ですが、結局、発売は中止となったのです。
理由は、情動や精神疾患の副作用はリモナバントで目立って多かった(43.4% vs 28.4%, P < 0 .001)[STRADIVARIUS JAMA 2008]。
CRESCENDO研究(n=17000)において実薬5名偽薬1名と自殺者の偏りがみられた。
欧州医薬品庁は、「過食ができなくなって寂しくなり、自殺したくなる」という愁訴があると判断し、自殺などの副作用の重大性を重くみたのでした。
その結果、2008年、欧州糖尿病学会で一大セミナーが開催される事を期待まちにしていた私のような糖尿病専門医達の願望は、みごとに裏切られたわけです。確か欧州糖尿病学会は9月で、中止は、その直前だったように記憶してます。
とにもかくにも、欧州医薬品庁は欧州での販売の一時停止を指示しました。
その後、sanofi-aventisは10/23に中止を発表するとともに、日本を含めた世界での治験の進行を停止しました。
約80万人以上の肥満者が恩恵を受けた薬剤なのに、自殺者が数名でたことで、承認却下となってしまった、本当に本当に、残念な薬でした。
それからというもの、私は「抗肥満治療」を行う際には、必ず「自殺企図」があるかどうか、を詳細にチェックするようになりました。
そういうチェックを怠る医師がいたから、こういう良薬が消えてしまったわけなのです。私は自殺企図がありそうな患者は、しっかりと排除していたのに。そうしていなかった医師が多かったのでしょう。
こうした歴史を、今の日本にいる、美容整形外科クリニックや美容皮膚科の医師達は、知らないでしょうし、感心もないかもしれません。
ですが、抗不安薬くらいは処方する内科医であれば、自殺者がでるか、でないかは、大きな問題です。
結局、リモナバンは最後はインドで生産され、残った数錠が私にプレゼントしてくれた方(インド人)がいました。
ですが、なんだか、せっかくの良薬を、正しく処方できていなかった医師が多くいたために、世界から葬りさられた薬がある、という現実を認めるのが嫌で、服薬できなかった思い出があります。
こうした歴史を引きずっているせいか、なぜか、サクセンダの投薬や、オゼンピック、ビクトーザの投薬を単純治療だと思っている美容系クリニック医師達には、嫌気がさします。
そんな安易な気持ちでGLP1ダイエットを行ってほしくない、と勧告を与えたくなるようになったわけです。