胃運動を抑制する効果が強いだけが良いとはいえない。
世界の流れは、GLP1作用を使って胃排泄速度を落とし、血糖をさげ、体重を減らす、そういう方向に走っていたら、日本の武田薬品が、糖尿病では要注意、という学会発表を公開してました。
Real -World Evaluation of Economic Burden for Diabetic Gastroparesis in the US
というタイトルの発表です。要点は、糖尿病があると、特に、神経障害が進行すると、
糖尿病胃麻痺(Diabetic Gastroparesis)という状態が作られることがあります。これは、合併症が進行して、胃の運動が麻痺している状態です。そこで、
Diabetic gastroparesis (DG) is characterized by poor • glucose control,
suboptimal nutritional and hydration status, greater risk of complications,
and frequent need for hospitalization.1,2
• However, the economic burden of DG is not well understood.
つまり、胃が麻痺している状態を作ると、血糖コントロールが乱れることがある。栄誉がとれないことがある。脱水になることがある。合併症の頻度が高まる。そして入院の頻度が増える。というのです。2008-2016にかけて、おそらくカルテを解析し、胃麻痺があるか、ないか、で、かかる医療費を計算しただけの調査だと思います。
結果、糖尿病胃麻痺があるだけで、$65,388 かかる費用が、糖尿病胃麻痺がないと、最終的に、$37,070 に節約できるというものでした。
痩せたいがために、やみくもに、胃の運動を抑えてはいけないだろう、というのが、武田薬品の主張なのでしょう。もし、胃麻痺がある時には、武田薬品のPPIという薬剤を使ったほうがいいということを主張したいのか、あるいは、胃麻痺をおこさないDPP4阻害剤であるNesinaを処方することが薦められるということが主体なのかもしれません。
いずれにしても、GLP1を高濃度にすれば、胃の運動が抑制されますが、それだけでは、糖尿病の臨床では、危険が伴うということは、臨床医として注意すべき点を喚起しています。
世界の流れは胃の運動を抑えよう、としている薬が主体となっているこの時期に、やや反旗を翻すような発表ですが、武田薬品らしくて、よい、と思いました。
行き過ぎは、いずれにしても、よくないです。胃に対する効果が強ければよいというものでもないようです。特に、糖尿病胃麻痺がある患者さんには、そもそも、GLP1の効果が弱いのかもしれません。もともと胃排泄速度が落ちているわけですから。